休憩モード

休憩中に書きました。

図書館総合展in塩尻(2016/07/02)

図書館総合展in塩尻http://www.libraryfair.jp/news/3461 )に参加した。フォーラムのテーマは「出版と図書館の未来図」。長野県に縁のある出版社の社長そろい踏み。このような場で,出版社の社長の話が聞けたというのはとても得難い経験になった。

個人的には,持谷寿夫氏(みすず書房社長,日本書籍出版協会 図書館委員会委員長)の話について,いくつか重要な指摘があったと思う。論点整理が必要かと思うが,私の印象に残った点をメモしておきたい。

持谷氏の話の中には,例えば下記のような点が指摘されていた(以下は筆者によるまとめであって,必ずしも,発言順ではないし,当人の意図を汲み損ねている点もあるかもしれない。)。

  • 出版業が厳しいということと出版が厳しいということはイコールではない。厳しいのは業としての出版である。
  • この点を踏まえ,図書館に対して働きかけたいこととして,出版情報(どんな本が発刊されるか,なるべく早く詳しく,図書館に提供して,可能なら予約してほしい)を提供したい。
  • また,書店や著者を巻き込んだ展開をしたいと考えている。以前よりは協働しようという出版社の姿勢が見えるので,積極的に声をかけてほしい。
  • 図書館には,本を紹介してほしい。どんな形でも構わないから,人が本に出会う場所を提供してほしい。実際に手に取ってみる体験の提供,本の再生産の循環の一つに図書館を位置付けたい。

この中でも,「循環」という語はキーワードだろう。本の再生産という語は用谷氏の術語であるが,私はこれを知の再生産における循環と解している。持谷氏の前に登壇した岩波書店の岡本厚社長が講演のなかで,「近代」という社会構造に出版が果たした役割を述べていた。つまり,近代は出版産業が知的基盤を構成するための主要な知を提供してきたのだという。この提供された知は,さらに再生産を経て,新たな知を生み出すという循環がその背後に見えるわけだが,一方,岡本社長は,今日のソーシャルメディアがこの循環を断ち切る可能性を示唆している(氏は,ここまで明確な物言いはしていない,念為)。岡本社長から,ソーシャルメディアは自分に近い考え方を積極的に取り入れてしまい,そこに分断が生じているのではないかという指摘があったのもこういった背景によるのだろう。

さて,出版も図書館も,その活動には,何らかの知識や情報といったものを人(読者,利用者という用語の差はあれども)に届けることが多くを占めている。このことは,今回の総合展で登壇された出版人の言を待つまでもなく,一定の共通認識を得ているものだと思われる。知識や情報は届いて終わるということはなく,何かしらの知識や情報を生み出すことへつながっていく。その活動には終わりがなく(つまり,始まりもない),活動にかかわる主体がそれぞれ存在しているに過ぎない。

そういった主体の大部を出版が占めていた。持谷氏の言い方では,業としての出版が占めていた,ということになろうか。ところが,業としての出版が厳しい状況下に置かれるようになってきて,この循環にかかわる主体を全体的にとらえようという流れになった。循環を担う主体は,出版だけではなく,図書館もということだろう。当然,これはとらえ方だけの問題であって,図書館の本質的機能には何ら影響はない。従前から図書館は知的生産の場としても存在しているし,知の再生産に寄与していることは間違いない。

おそらく,大きな意味としては,それぞれが独立して知の再生産における活動主体たり得ている,という方向から,出版も図書館も独立した主体ではありながら,しかし,相互に連携協力していく,という方向への転換だろう。具体的な動きが各地でおこり,出版でも図書館でもその動きが共有され,社会的にも共有されていくようになるだろう。そのためには一定の努力が必要だし,働きかけも必要である。出版も図書館もそれ自体が主役ではない。何かしらの活動をする人のためにある存在である。社会的な共有を目指すために,出版と図書館の協働が必要なことは明白だろう。

第37回図書館建築研修会(2015年度)東北における新たな図書館の動き:震災から立ち上がる図書館. 1日目(2016-02-08)

標記研修会への参加。一関で開催されるとあれば行かねばなるまい。ただし都合により基調報告は参加できなかったので,自分が参加したところのメモ。この研修会の予稿集は販売されているので,ぜひ買うべきだろう。

1 基調報告「被災地の図書館復興の動き -東日本大震災によって被災した図書館の訪問記録」(川島宏 日本図書館協会施設委員)

拝聴できず残念…。資料を見る限り,丁寧に現地を回り聞いていった模様。

ちょっとした雑感。

予稿集には次のような記述がある。

訪問のお願いのために20近い館に連絡をしたが,「当時のことを知る職員はいませんが」との返事が意外に多かった。(中略)ただ,「大震災の時,図書館で何が起こったかを忘れてはならない」という思いから無責任に言えば,少し疑問に感じた。被害状況の記録や工事記録写真など,複数の館で事前に準備していただき拝見することができて,記録することの重要性を感じたが,地震発生時に現場にいた職員の言葉は重い。

自分も,異動した身であることから,この指摘にはうなずける。一般に人事異動の周期は3年程度であるが,図書館政策のスパンはもう少し長い。というよりも,建物復旧が必要な図書館の政策スパンは私としても,5年以上と考えるべきだろう。また一方,異動により経験知などがうまく引き継がれる組織づくりも必要である。 当たり前のことではあるが,当たり前のことができる組織は本当に少ない。

2 震災復興に向けた都市計画と図書

気仙沼図書館の熊谷館長と基本設計に携わっている柳瀬さん(岡田新一設計事務所)の二人からの報告。

(1)気仙沼図書館災害復旧事業

■ 熊谷 気仙沼図書館長から

  • 震災時の気仙沼の様子を写真とともに解説
  • 当時の図書館,現在建設計画進行中の図書館についての説明
  • 2年間の検討期間を経て計画
  • 事業費19億円,国庫補助金,市債(過疎債),寄付金(インドネシア政府),一般財源
  • 市の復興目標=震災前に戻すことではない
    • 面積が大きくなると復旧事業費ではまかなえない
  • 図書館にいけば新聞があるじゃないか
    • 情報を住民に提供する役割を痛感した

■ 柳瀬さんから

  • 3月に設計あげる。その後現建物を解体。
  • 最初に教育長を訪ねたとき,児童館との複合について,簡単なものではない,ということを言われた。
  • 名取・大槌・陸前高田図書館を紹介したい。図書館の原点のようなところと思う。
  • 設計が終わったら終わりではなく,どんどんよりよい方向へ変更していくこともできる。

  • 気仙沼図書館の設計

  • 環境特性として「つながり」を生かす。

個人的には,この案件の前工程である検討委員会に二年間委員としてかかわっていたこともあり,進捗は気になっていた。設計プロポーザルが行われ,設計者が決まったという報告があって,あとはきっといい具合に進んでいくのだろう,と思っている。実際,いい具合に進んでいるのではないか。災害復旧で復旧費以外を充てることがほとんどの事業が多い。復旧はあくまで復旧であって,それ以上ではない,それ以上を求めるなら自主財源で,という姿勢は正しいのだろうが,なにか違和感も一方で感じる。

(2)福島県内の現状:被災状況を振り返りながら

■吉田(福島県図書館)さんから

(2016年1月22日現在で,)

  • 福島県内の図書館はほとんど2011年度内に再開。現在5館が休館中。
  • 数値的には震災前に戻ったが,震災前に戻ってないという声が大きい。=会津若松・白河の新図書館の数値が底上げしている。
  • 小さな図書館では,館長と職員一人というところもある。実際になにか起こると,若手の正規職員であっても,臨時職員等に指示を出す必要があるが,うまくできなかったという回答もあった。
  • 現在休館している図書館では,再開のめどが立っていないこともあり,協力体制を申し出たとしても,なにもできない状況下。基本的には情報収集をメインにしている。

原発の被害をどうしたらいいのか。と考えると重い。すごく重い。 科学的な分析とともに,一方で,心理的なことがら。放射線量が表面上少ないからといって,再利用できるのか。できないとすればそれをどう処分するのか。あるいは,一点ものとしての資料はどのように再構築できるのか。できないのか。

もやもやしながら二日目へ続く。 パネルディスカッションは刺激的ではあったが,なかなかメモをとるのも難しい。

林家正蔵独演会(2016-01-17)

加美町のバッハホールにて開催された林家正蔵独演会(14時開演)に行ってきた。 9代目林家正蔵の落語を生で聞くのは初めて。

  • 林家まめ平
    • 転失気
  • 林家正蔵
    • みそ豆
    • 新聞記事 (仲入)
    • 「ねずみ」

PAがあまり良くない。マイク音量バランスをもう少し気にしてほしかった。 まめ平さんはうまく場をつくり,落語の仕組みなども解説しつつ,つなげていく。 正蔵さんは,頑張っていたなぁ。 ただ東北弁があまりうまくない。ねずみの舞台を仙台にしたはいいが,ズーズー弁が不自然すぎた。 とはいっても,全体を通してはかなり良かったので満足。

東日本大震災アーカイブシンポジウム 地域の記録としての震災アーカイブ〜未来へ伝えるために〜

2016年1月11日に開催されたシンポジウムに参加したのでメモ。 私は過去2回登壇させてもらったことがあるシンポジウム。継続して開催されており,一年の動きみたいなところもわかる。 例によって,以下のメモは私が聞き取れた,理解できたところでのもので,公式記録ではないので,その辺はご留意を。

東日本大震災アーカイブシンポジウム 地域の記録としての震災アーカイブ〜未来へ伝えるために〜(2016年1月11日) « みちのく震録伝 震災アーカイブ

開会のあいさつ(今村)

  • アーカイブは,311をどのように後世に残すのかという課題がある。震災直後の被害の菅ら,地震津波過去の災害経験,福島の原発事故も含まれ,経験のない災害,複合災害になってしまった。繰り返さないために,記録を残すことが大事。
  • このシンポジウムは今回で5回目。1月11日の月命日に合わせて開催した。神戸大学の附属図書館や中越取り組みが先例としてあり,当時は,手探りであった。これだけ大きな災害をだれがどのようにアーカイブするか。が大きな話題であった。ニュージーランドのポールミラー,ハーバード大学のゴードン先生などを迎えた。
  • 今回は,10年を経たアチェ博物館からハサン先生を迎えた。忘却とどのように向き合うのか,伝承するのか,ということについて語っていただきたいと思っている。
  • アーカイブ,記録することは重要であることはだれでも認めるが,継続することは難しい。一歩でも,復興途中ではあるが,記録して残せればと。
  • シンポジウムで様々な情報収集をいただき,コメントいただければと思う。

特別講演「博物館における教育・研究活動と災害アーカイブの統合-アチェ津波博物館におけるアチェ津波デジタルアーカイブ(DATA)-」トミー・ムリア・ハサン(アチェ津波博物館長)

  • ハサン氏の経歴1979年生,2015年から津波博物館の館長。それまでは,復興庁にていくつかのプロジェクトにかかわっていた。津波被害の経験,軽減を若い人に伝えたい,という思いで引き受けた。
  • 津波災害の様子を写真等で説明
  • 2005年4月,アチェ津波復興庁(復旧・復興にかかわるすべての事業を取り扱う。BRR)設置。これは4年の時限。54億ドルの支援が国際社会から寄せられた。
  • 優秀な人材を集めたかったが,すでにアチェで活動していた人材は,BRRの給与水準以上であり,人材収集のために,大臣条例により給与を担保した。BRRは仮設テントに住んでいる人をよりよい住居へ移動させること。公式には2009年にBRRを解散し,復旧が終わった。未完の事業は,州政府等に引き継がれた。
  • 多くの記憶,教訓,経験が残された。問題は,人間は過去について忘れやすい。こうした記憶をどのように保存していくのか。BRRの長官であったクントロ氏は,復旧復興が進むにつれ,津波の痕跡が消えていくことに危機感をもっており,津波博物館の設置を構想し,2011年に開館した。
    • アチェ津波博物館の機能
    • 災害情報,防災と教育のための拠点
    • レクリエーション目的
    • 避難エリア
  • 博物館はほかの機関との協力がないと成り立たない。大学や研究機関の研究を社会に広めていく。そういった機能を強化していきたい。博物館の所蔵物は館内にだけあるのではない。発電船は漂着した場所にとどめ置かれ,博物館として内部を公開している。
  • デジタルアーカイブ(DATA ダタ プロジェクト)
    • 博物館ですべてのデータを入手できていない。復旧・復興庁のデータは国立アーカイブズに引き継がれたが,十分な整理ができていない。このため,津波博物館のデジタルアーカイブ構築により,加速化をもくろんでいる。共同して進めていくことにより,一つの場所で見ることが可能になる。 - 時系列的なデータ構造
      • 津波以前(-2004)
      • 発災時2004.12.26
      • 緊急支援時(-2005.3)
      • 復旧復興期(2005.4-2009.4)
      • 平常時(2009.4-)
    • DATAプロジェクト
      • ストレージ
      • 場所(研究,学習の場)
      • 共有(活用の発表)
    • デジタルアーカイブにアクセス可能で,広く共有可能であることが重要である。

事例報告(1)「青森震災アーカイブについて」漆戸啓二(八戸市防災危機管理課主事)

  • 2011年4月防災危機管理課に配属。課内で唯一震災を経験。
  • 青森震災アーカイブの沿革。アーカイブ実証調査をきっかけ。実証調査で収集したデータを青森震災アーカイブに移管。
  • 文書データにおけるマスキングポリシー。公文書として扱う範囲。行政文書の取り扱いを一時的に非公開にして議論している。マスキングのせいでほとんど真黒な文書データがある。

事例報告(2)「東日本大震災アーカイブ宮城について」菊地正(宮城県図書館副館長)

  • 震災時は,宮城県危機対策課長。職員一同全力で取り組んでいた。あの時あれでよかったのか,という自問自答がいまだに消えていない。震災アーカイブについては,4月からきてかかわっているが,思い入れがある。
  • トップページの上3枚は閲覧回数の多い順に自動更新。下は検索インターフェース。
  • 県と県内市町村が連携協力している。約41万件のうち権利処理が終わった31万件を公開している。県がまとめて権利処理を行っている(一部を除く)。市町村があらためて権利処理を行う必要がなく,閲覧者が使う際に基本的にはあらためて許諾をとる必要がない状況としている。
  • 県内全域のデータであるからこそ,ライフライン,避難所,食料といった分野ごとの整理活用により災害対策への価値は高い。
  • 利用する側の目線でのパッケージ化(まとめ)を提供する。
  • 東日本大震災文庫という収集資料との組み合わせをどうしていくか。継続的な記録も重要。=つくっただけでは意味がない。

事例報告(3)「浦安震災アーカイブについて」白沢靖知(浦安市中央図書館奉仕第2係長)

  • 事業繰り越し(3月に明繰),平成27年6月末まで。27年7月から公開。
  • マスキングを外してほしい,という問い合わせがあり。
  • コンテンツの修正登録ができる職員を育成する必要がある。
  • アーカイブを知っている市民が全体の3割。行政広聴「Uモニ」を活用した。

進捗報告(1)「岩手県における震災アーカイブの現状」柴山明寛(東北大学災害科学国際研究所准教授)

  • 岩手県の取組みについての途中経過報告
  • 権利処理などの論点整理も。
  • 3月にガイドライン策定・発表予定。

進捗報告(2)「ポータル(入口)としての国立国会図書館東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」」- ひなぎくの運用状況報告。

進捗報告(3)「社会の減災を指向する災害アーカイブと災害伝承-『みちのく震録伝』と震災発生から5年目の災害科学的アプローチ-」佐藤翔輔(東北大学災害科学国際研究所助教

  • 東日本大震災の教訓とはなにかを知りたい→災害科学に基づいて作成したDB 311からの学びDB=キュレーション
  • 震災教訓データベース→論文から結論部分を機械的に抽出
  • 伝承=残すこと,伝えることで減災できているのか(津波伝承知メディア)

パネルディスカッション

  • 柴山)5年目,アーカイブはずっと行われてきた。地域の記録として,今後どういう風にアーカイブを進めていって利活用を進めていくか。発展させていくか。地域にどのあたりが重要なのか。

    • 漆戸)リリースから2年。いま集めているのは,被災の状況,被災直後の写真などがメイン。記録誌と変わらないということになる。自治体だけではなく,企業も含めて,復興の状況を集めていく,というのが自分が考える未来である。いろんなところが持っている資料をたくさん集める。

      • 柴山)どれくらいの資料数目標あるか?
        • 漆戸)どれくらいあるのか,というのがそもそもわからない。すべてあればいいなと思っている。
    • 菊地)教訓のまとめについて,大学の先生方であるが,宮城アーカイブから抜き出されて,教訓ができるといいなと思っている。全文検索ができるわけではないため,本当はそういうのもあるといいのだが…。解析してみたい。

      • 佐藤)解析自体は,すべて論文となっているものを行っている。
      • 柴山)簡単に教訓に落とし込めるわけではないし,論文も書くのに時間がかかる。なるべく研究者としては急ぎで提供したい。
    • 白沢)市民,民間で持っている資料も収集しないといけない。素材が集まったのでこれからそれを料理し,公開していく。
      • 柴山)宮城県では早くにアーカイブの取り組みがあり,教育プログラムもたくさんある。
    • NDL)資料をため込んできて,どう使うかという働きかけは弱い。こんなところにある,という利用者が探してくれる。震災資料については,デジタルアーカイブを漫然と公開しているだけで使われるものではない。学校への働きかけなど教育という部分は図書館なので,なじみやすく,いかに使っていくかを考えていきたい。また,特徴的な取り組みとしてWebアーカイブもされている。
      • 柴山)Webアーカイブを授業で使っている。過去に戻るのができない。
    • 佐藤)情報のライフサイクルがある。情報収集の前に情報要求がある。それを明らかにしていきたい。
      • 柴山)地域の要求は様々である。いろんな人に聞くしかないかと考えている。
  • フロアから)教訓の掘り下げ。ツールをつくるか,運用でカバーするか,簡単な区別ができるといいのだが。

    • 佐藤)スケールの問題と思っている。
    • 菊地)難しいだろう。一つの物事を右か左かで見方が違ってくる。簡単には決めていけないだろう。ツールがあればいいかもしれないし,そこまでいかなくてもいいだろう,ということもある。 - 青森)大きい,小さいの災害の線引きはしにくい。大小にかかわらず被害状況は記録されているので,公開することは可能だろう。自治体としては,そういった要求があれば対応できるという体系としておくのが重要であろう。
  • 柴山)震災アーカイブの方向性について,一言いただきたい。筑波大学の杉本先生と首都大学の渡邊先生にコメントをお願いしたい。

    • 杉本)デジタルアーカイブは使ってもらいにくいもの,といえる。NDLがずっとやっている。集める側の視点で作られている。震災アーカイブを見ていると本来あったコミュニティで作られたアーカイブがある。つないでいきたいという意思を感じる。いろんな使い方をしてもらいたい。使い方としては,防災教育,専門家の研究,地域としての記録を記憶に置き換えることがなされていくべきであろう。写真をみて,いろんな人が思うことは異なるはず,コミュニティとしての記憶を作っていく,保っていく,伝えていく,ということ。言うは易く行うは難しである。地域に根差したポジションで,図書館や公民館などで,進めていけないだろうか。使う側としてもコミットしていく場が必要。
      • 柴山)循環するアーカイブ。コミュニティを作るという感じか。
    • 渡邊@広島アーカイブ)広島でワークショップを開いてうまくいったのだが,どんな風に平和学習に使えるのか,ということを高校生にやってもらった。情報デザインとして,デザイン指向(消費者がどんなものを求めているかからデザインを指向する)があげられる。教材作成のなかで。若者が何を学びたいか,というベースから始めるといいのではないか。副次的な効果として,若者が生き生きしていると,上の世代は元気でいられる。まちの活性化につながる。
      • 柴山)きっかけづくり,というのが重要か。東日本でも試みているが,PTSDもあり,難しさもある。震災を知らない若者も増えていることは間違いない。
      • フロアから(政治学,東北大に2013年まで在籍されていた先生):記録誌だけではなく,復興の形を集めておくことが大事。過去の震災を見ていると震災時と復興時に記録誌ができる。震災誌と復興誌に対応。記録誌において,震災誌はあるが,復興誌はどのように作られるのだろうか。 教訓を一言で整理するのが重要だろう。ろんなものがあるが,「これはなんだろう」と思う。デジタルアーカイブは,書かれたものと異なり,どのようなものであるか,という見取り図があるといいと思う。データベースを作っている歴史を少しずつ紡いでいくことが必要なのではないか。5年の段階でオーラルヒストリーを取っておく必要があるか。しゃべっておくだけでもいいのではないか。デジタルアーカイブのでき方がストーリーとして見えてくるかもしれない。
    • 佐々木@神戸大学阪神淡路大震災から5年の時。人防の資料の基礎となった資料の調査収集事業を行っていた。5年でそれほど出るのか,ということだったがたくさんあった。ボランティア元年ということもあり,ボランティア団体の資料がたくさんあるはずだし,活動を継続をしているから報告を出せない,という話もあった。大事であるから,活動収集終了にあたって資料をほしいと言っておいたこともある。長期にわたって資料が出てくる。集めている。長いスパンで,ある意味,全体を知りたい,全体を残すにはどうしたらいいかという意気込みが必要だろう。
    • 森本@ハーバード大学)地域のアーカイブの在り方について。アーカイブを持っていて,データを提供できるという可能性。東北のこの地域を知ってもらえるチャンスがある。デジタルアーカイブの使い方というクラスで,初めてデジタルアーカイブを使っているなかで,地域に興味を持ってきた。権利などの問題はあるのを承知しているが,国際目線としてはそういう可能性もある,ということを示している。
  • 柴山)最後に一言ずついただきたい。
    • 漆戸)自分の次の担当にしっかりと気持ちを伝えることが必要。役所全体で育てていきたい。 - 菊地)自分たちで自分たちのアーカイブにタガをはめない。使ってもらう工夫が必要だろう。宮城県の中だけで考えない。日本の中だけで考えない。子供たちに自由な発想で考えてもらう。クリエイティブな発想で。
    • 白沢)公開したばっかり。市民だけではなく,いろいろな人たちに活用していただき,役に立つシステムでありたい。
    • 諏訪)ひなぎく公開から3年。NDLの使命と目標のなかの一つが,震災アーカイブ。なにができて,なにができていないのか,というところを検証したいと考えている。次のステップへの布石。
    • 佐藤)減災・災害科学ということでは,アーカイブを途切れないものにする,ということは大きな課題であると考えている。
    • 柴山)データを公開するのには,権利処理が必要である。提供する側の権利をまもりつつ,利活用しやすいようにする。権利処理を議論しながら,詰めていきたい。

所感

  • アーカイブの構築時の課題。構築はある種の構造化であり,世界観の構築につながる。メタデータの普遍性は一定の限界があり,それは利活用の幅と密接な関係がある。どのような利活用にとっても,有用なメタデータはつけようがない。ベーシックなメタデータのありよう,というのがもう少し見えてほしいと思う。
  • 利活用という用語が共有される実態はどこなのか。利活用という言葉がさす部分が,使う人それぞれに違っているような気がしてならない。これらの概念をすり合わせて話をしないと,抽象的な部分で一致しているようで,具体的な部分で不一致する可能性が高い。
  • コストについても触れてほしかった。人的コスト,金銭的コスト。震災関係のアーカイブにかかるコストはだれが負担すべきなのか,ということをはっきり打ち出すべきではないだろうか。

アクセスの再定義—日本におけるアクセス、アーカイブ、著作権をめぐる諸問題

2015年6月13日(土),標記のシンポジウムに参加してきたので,そのメモ。
内容が濃すぎて,たまに飛んでます。私の聞き取れた範囲での記述ですので,読むときはそこに留意してください。

www.meijigakuin.ac.jp

イントロダクション(ローランド・ドメーニグ:明治学院大学

  • アーカイブをめぐる課題が様々。自分の専門は映画であるが,映画フィルムのアーカイブに課題がある。
  • 日本にはアメリカと異なりフェアユースが法的に認められていない。
  • 今日は結論がでるとは思っていないが,さまざまな実務に携わる人に集まってもらった。

パネルディスカッション1: アクセス否定? 日本におけるアーカイブ・アクセス・著作権文化との経験・実践

司会者:アンドルー・ゴードン(ハーバード大学歴史学部教授
パネリスト:森川嘉一郎 (明治大学),柳与志夫 (東京文化資源会議事務局長),大場利康(国立国会図書館),マクヴェイ山田久仁子 (ハーバード・イェンチン図書館司書・NCC議長)

  • ゴードン
    • 東日本大震災アーカイブのアーカイブをつくろうとしたときに,さまざまなパートナーと協力してやってきた。アメリカで60年前に東北の写真をハーバード大学に寄贈されたものをどう扱ったものか,という課題にも直面した。
    • 2015年1月にアーカイブサミットが開催されており,今日のイベントはこの気持ちをつないでいくものでもある。
  • 森川
    • コミックマーケットにおける二次創作と権利実践。TPP交渉でもコミケの権利処理について具体的な話題がでている。
    • コミケの例を紹介)著作権との関係だと二次創作が多い,ということで注目される。ファンアートとして頒布されている創作物がメインととらえられるが,一方オリジナルも多い。また,ここで生み出されるトレンドなども注目されている。これらのことから,商業出版を一次としてそこから二次出版物が作成されるという図式は一面的な見方である。コミケでは年2回で,8万点から10万点ほどの本が出ているため,商業出版よりも同人出版のほうが圧倒的に多数である。
    • マンガに関するあれやこれやの資料を集めるときに,特にアニメなどはおもちゃの広告として作成されることも多く,おもちゃそのものを収集しておく必要がある。あるいは,ゲームソフトやハード,パチンコ台にいたるまで,関連するものを収集している(明治大学の場合)。
    • 東京国際マンガ図書館の構想について。コミックマーケット準備会のような組織ではなく,公的な,永続的な組織が必要という議論が背景。資金が必要であるが,現状整っていない。
    • 日本のアーカイブにかかわる制度,情報の話をしたい。3月までNDLにいて,終わりの5年間はほかの職員とは異なる仕事をしてきた。政策形成支援を仕事として,法改正のための政策勉強会へのサポートしてきた。
    • (アーカイブの概念についてのあれこれ)。資料のアーカイブと組織のアーカイブ,とか。意味は別として,アーカイブという言葉は普及してきた。共通認識として,デジタルコレクション(DCC)をデジタルアーカイブ(DA)ということで提供する場合,両者は一致するものではない。DCはさまざまな利用制度を整備しDAとして提供される,という認識が共通認識となってきたのではないか。アーカイブにネガティブな印象を持っている人もいる。
    • ただこの5年ほどの間で,アーカイブに関する=特に制度としてのアーカイブをつくっていく必要があると感じられてきた。概念的な共通認識があるとしても,これぞアーカイブである,という具体的な事例がほとんどない。こういう状況を整理して,総括して,進めたい,というので立ち上げたのがアーカイブサミットである。アーカイブはいろんな分野に広がっているし,コンテンツという観点からするとさらに広がる。行政庁が一つにならない,人材(知識専門職)の不足や,財政上の措置,などの課題から,アーカイブを通底する基本法が必要だ。
    • モノのデジタル化は一定の配慮がされるようになってきたが,デジタル文化資源(ボーンデジタル資料)についてはまだまだ。
  • 大場
    • 自分の今日の発言は,NDLの公式見解ではないのでご留意を。
    • デジタル化作業の技術とコスト,システム構築の技術とコスト,著作権処理のノウハウとコスト→これらを合わせると結局,「人材と予算」。NDLの研修は人材育成に寄与することは多少できているかもしれないが,お金に関してはなにもできない。
    • 利活用の壁。どれがなんだかよくわからない=自分がほしいものが入っているのか,が簡単にわからない。どう使えるのかわからない=このデジタル化した画像を出版物に使うにはどうするのか,展示会に使うにはどうするのか,といった部分。著作権保護が満了した場合にNDLは自由に使っていいということを言っているものの制度的な設計はまだ不十分。
    • (最近の動きとして)文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会での審議経過(2015.3.12,第41回)。現行法制度の解釈を結論付け=法改正の必要がない。知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会(2015.4.27,第11回)アーカイブの利活用集中討議,議論の整理 に関する動き。
  • 山田
    • 北米での図書館司書経験からの話。映像資料について,コンテンツへのアクセスについて話をしていきたい。
    • 媒体としてDVDパッケージとしてコレクション。寿命が短い(本に比べて)。内容的に英語字幕がない,質にばらつきあり,海賊版かもしれない,といった北米からの課題。テレビ番組を教育で活用したくても不可能に近い。
    • 韓国の例では,国が一括して権利処理を行い様々なプラットフォームで利用できるような仕組みがあり,コンテンツが流通している。


会場からの質問,コメント。

  • (フロアから)コストをだれが負担するか。漫画ミュージアムの建物をどこが被るのか,字幕を付けるコストをだれが負担するのか,みんなで被るのか,だれかに負担させるのか。世間一般にコストを超えるうまみをどう理解してもらうか,についてどう考えているのか。
    • 大場
      • むつかしい問題だが,コストは税金を投入することになる。社会的な認知が必要。それをどうやって認めてもらうか,ということ。お金が儲かるという話につなげると通りやすい。間接効果がある,という説明はできるが,直接的にいくら儲かるか,というのは言いにくい。BLに1ポンド投資すると5ポンドの経済効果がある,というレポートを出してもらったという例もある。
    • 森川
      • コストは一つには受益者による負担。アーカイブは一方で,永続的なものとして構築するための負担は受益者だけか。税金を投入する場合,価値が認識されていることが必要だが,価値が認識されているころにはなくなっている,という課題もある。一般の人に周知していく=アーカイブすることの価値を訴えていくことが,必要か。
      • 資料といわずに資源とした。文化資料だとそのものに価値があるから保存収集していく,という話になるが,使われることで二次的な価値を生み出だすといったことを重視するため。資源は投入することで新たな価値を生み出すという意味合いが大きい。税金のほかに,個人や民間公共という部分も考慮できるのではないか。多くなくとも,いくらかでも,収益を再投入できるような,スモールビジネス=地域コミュニティの中でのビジネス規模を考えていく必要があるのではないか。
      • 2020年に向けて日本文化を発信する必要があるが,日本語を翻訳する必要があるという問題意識がある。日本語の本の書誌情報を英訳すること=なにが出ているかが不明,が一つ。その中から本文テクストを提供すること,がもう一つ。書誌情報は税金投入でないと厳しいだろうし,永続的に試み,コンテンツを提供するのは官民どちらかという話なのかどうか。
    • 山田
      • アクセスできるコンテンツを増やすには,制度的な障壁を取り払いたい。NHKのコンテンツにお金をだして買うといっても買えない,というのが問題ではないか。
  • フロアから
    • 市民がお金を出す。市民のための図書館はどうか。区立の図書館ですら非常に貧しいという現状。税金を投入することを受け入れる意識の問題として,どうか。
    • 大場
      • どこを充実させるとアクセス,利用につながるのか,という完全な解はないだろう。NDLは間接的なサポートを業としている。著作権期間未了のコンテンツを使えるようにしよう,というような。ただし,地域の図書館が弱るのはNDLとしても困る。地域の中で図書館や博物館などがいかに絡んでいくか,ということだろうと思うが,そのための人を育成するとかノウハウを共有するとかそういった部分はNDLが果たしていければと思っている。
  • フロアから
    • 内閣府でオープンサイエンスをきちんとやっていこう,という話。中間的な媒介者に関してどうデジタルアーカイブから提供していくか,という戦略はどうか。より広い階層に届けるための戦略はいかがか。
    • 森川
      • 図書館という言葉や施設のイメージが付帯するものと,この場で議論されているアーカイブ=ここに行けばアクセスできる(価値判断を含まずに),という部分に隔たりがある。保存していくことの意味を意識してもらう必要があるだろう。
  • ゴードン
    • コストの負担については重要であるが,一方で,法制度を変えることが必要だと考えている。NDLで電子化したコンテンツを見るために足を運ばないとみられない状況であるという法律上問題があるという中の現状には不満がある。また,例えばNHKの番組をいつでもどこでも,だれでもアーカイブされたものとして利用できないのか,ということ。午後につなげる話題として指摘しておきたい。

パネルディスカッション2:アクセスの理論 所有権の問題

北野圭介(立命館大学映像学部),上崎千慶應義塾大学アート・センター),イアン・コンドリー(マサチューセッツ工科大)
司会:アレクサンダー・ザルテン(ハーバード大学東アジア言語・文明学部)

  • アレクサンダー・サルデン
    • アクセスという概念が変わってくる。コンテンツや作品を使うというアクティブな行為であることを含めて,アクセスという概念が変容しているという課題設定がある。午前中はアーカイブに関わっている人から直面する課題を挙げてもらったが,午後の部は,アクセスを少し抽象的な概念としてとらえていくことにしたい。
  • 北野
    • 自己紹介を兼ねて。立命館大学映像学部というところに所属しデジタル映像とアナログ映像の違いがあるのか,といったところを研究してきた。デジタルテクノロジーによって社会がどのように変わってきたのか,というところで本を出版した。自身の軸足がどこにあるのか。映画をやると同時にビデオゲーム,コンピュータグラフィックを研究するという曖昧さと幅を広げ得ている。
    • 先週の土日はロンドンで似たようなカンファレンスがあった。そこでは,デジタルイメージ(ビジュアライゼーション)は,自分たちの暮らしにどのような影響を与えるのか,ということを話題にしていた。デジタル環境下においては,いったい誰がステークホルダーなのか,だれがどうかかわっているのかわからない,ということをたくさんの人が話していた。
    • いまや,日常生活では,スマホのような使い方,アーカイブにキーワードを放り込んで,リサーチして情報を得る,ということではない。スモールアーカイブにダイレクトにアプローチして情報を得る,というWEB2.0とは異なる様相を示しているように思われる。アプリケーションソフトは表層へのアクセスではなく,オペレーション。セルフリプレゼンテーションが求められる。(分析として)ユーザーサイドからは,コンテンツからプラットフォームへという様相。アプリケーションによって,どのようなコンテンツにアクセスできるのか,の重要性が増す。管理サイドからは,監視社会から制御社会へ。だれもが使っているアプリケーション,たとえば,いいね! などはボトムアップ型の監視=制御と言える。キネクトに代表されるように,物を認識するということ自体人間を介在させないことができている。コンテンツの再生性が当たり前の環境が周りにあるというメタコントロールの段階がもうすでにある。
  • イアン
    • 北野さんよりもう少し具体的に著作権を考えたい。ゾンビかサイボーグか,というキーワードを出す。ゾンビは死んでいるが,生きているか死んでいるかわからない,という意味。サイボーグはネットワークコミュニティとともに共生する。
    • 音楽の世界を考えると,メジャーアーティストは音楽人口の一部であって,これは経済的な価値であるが,通常広く音楽人口の大部分はソーシャルバリューとして価値づけられる。初音ミクに代表されるような音楽作成のプラットフォームは,一方で,ソーシャルな部分を広く認識させた。ニコニコ動画に代表されるようなもの。初音ミクは,ピアプロダクションとして著作権を規定した。非営利のファンサークルであればキャラクターの利用を認める,といった具合に。
  • 上崎
    • 主に戦後の前衛芸術,パフォーマンスや造形などを含め,データベースのスキーマ設計,利用者対応もしている。もともとアメリカの戦後美術批評についての興味がもとになっている。アーカイブと美術館との決定的な違いとして,展示にフィットするアイテムかどうか,ということ。アーカイブはそういった単位を崩す相対化したものになる可能性がある。
  • フロアから
    • コンセプトとテクノロジーの関係。テクノロジーの用意したフォーマットを超えたコンセプトの存在はどうか? だれが作ったかを意識しないで消費するのが普通の感覚ではないか?
    • 北野
      • その指摘はまさにそのとおり。プラットフォームが変わることによるいろいろな指摘があるだろう。高校生たちがライン動画のまとめサイトに勝手にまとめられて,YouTubeにアップされる,ということに違和感を持っている人もいる。
    • イアン
      • テクノロジーとオーサーシップの関係でいうと,オーサーシップがより強くなっているように感じる。「自分が作った」という主張。
    • ゴードン
      • 初音ミクを取り巻く著作権は重層的な構造である。フェアユースとの関係はどうとらえるか。
      • イアン
        • ヒップホップは,サンプリングを行う音楽作成をしている。日常的な著作権としてはすでに使っているものとして,サンプリングする。これをオーサーシップとの関連でいえば,どうなのか。オーサーシップはいまでもなくなっていない。
    • 北野
      • 日本の著作権において,一つ問題があるのは,たとえば映画の著作物はモノ=フォルムに対して働くもの。こういう場合のオーサーシップは複製物にも働くような制度であるが,コンテントとフォルムの関係はいずれテクノロジーにより相対化される可能性があり,ここも制度として手を入れる必要があろう。
  • フロアから
    • Wikipediaも似たような世界がある。アクセスのコントロール。映画監督がOKの場合,中心的でない女優がNGだったらNG?
      • イアン
        • 無視したらいいのではないか。
      • 上崎
        • 私も無視したほうがいいと思う。「著作権大丈夫」っていうあなたは大丈夫,ということを言いたい。
  • フロアから
    • アーカイブにはサイボーグ的なコンテンツがないだろうか。

パネルディスカッション3:アクセスの未来における可能性

福井建策(U弁護士),上野淳子(株式会社アーイメージ),小塚荘一郎(学習院大学法学部)
司会:テッド・ベスター(ハーバード大学ライシャワー日本研究所所長)

  • 福井
    • TPPの知財条項。米国の強い主張に反発あり。アメリカの最大の輸出産業だから。保護期間の延長。死後50年経っていると使いにくくなっていくだけ。青空文庫などのアーカイブは影響を受ける。オーファンワークスをどうやって減らすのか,という議論につながる。もちろん,保護期間が延びればオーファンワークスは増える。また,非親告罪化も課題。著作権侵害の法定刑は重いが,著作権侵害をしない人はいないと言い切れる。が,これをバランスとしてとるなら,フェアユースや裁判といった制度があるが,日本においては,なんとなくゆるされている,という部分でバランスしている。-- TPP交渉において,著作権保護期間の延長や非親告罪化はだれが得するのか。議論の方向性として,国の外で・密室で・一部の企業に都合のいいルール決められる。TPP妥結について,日本政府は延長を飲んだということを言われている。
  • 植野
    • アニメーションのアーカイブコーディネーターをやっている。東京都の産業振興政策ビジョンの政策チームに所属したことがきっかけ。
    • アニメアーカイブの構築で,データベース化している作品は数多い。アーカイブとして何を残すかといったことを考えている。ところが,文化庁の調査によると,所蔵機関によって書誌の取り方,点数の数え方が異なることが明らかになり,また,メディアの変遷があるため,保存技術というのがとても重要である。アニメアーカイブにおいて,デジタル埋蔵文化財をつくらない,ということを考えている。コストの問題は大きい。デジタル化されたものは残るかどうか。ボーンデジタルの消失を防ぐ。アニメは産業とともに発展してきた経緯があり,フェアユースや無料使用という概念は,コンテンツ制作の循環が壊れる。という現実をどう考えるか。
  • 小塚
    • SIMフリーのスマホが販売されている。通信ネットワークを持たない会社が,通信ネットワークを持っている会社へアクセスする手段を増やした=アクセス性。消費者にとってもアクセスをコントロールされている,という状況。コンテンツ流通のための法律をつくれないか,という仕事をしていた。コンテンツ流通促進法制。だれかに権利を集めて預かって同意をもらえる,ということを提言したことがある。
    • 平成26年の著作権法改正。電子出版権の創設があった。この背景として一番大きなものは価格決定権,といわれている。Amazonkindleで出版物の価格を決定する部分がどこかこれまでと異なる仕組みになる可能性がある。
  • 小塚
    • 著作権関係の国際赤字はどこに原因があるのだろうか。
  • 福井
    • 原因の一つはスタンダードを抑えられているから? 20世紀初頭や前半の作品(ピーターラビットとか)も人気があるし。。。くまのぷーさん1億円=ジャスラック1年分とほぼ同じ。くまぷーはあと2年で著作権が切れるはずだが。著作権使用料はほとんど北米に払っているはずだろう。日銀の統計だが,こまかな内訳が明らかではない。
  • フロアから
    • 31条一項の考え方が審議会で話題になったというが,これはそのとおりなのか。これまでの話とは異なるが,この後どういう手続きがあるのか。
      • 福井
        • 解釈の明確化であるから,図書館の所蔵資料のデジタル化はかなりできるが主体は図書館等である。文化庁長官裁定は誰でも使える。オーファンなものは各団体がやればいいのではないか,という議論がある。北欧とイギリスで導入されている。ECA。
      • フロアから
        • 図書館で複写する際の主体問題。図書館がデジタルアーカイブの委託をする場合は主体どうなるのか?
        • 福井
          • 30条は代行に出せない。31条は代行が認められるとされる。
      • フロアから
        • 歴史文書の所有者が,出版社がデジタル化して発行するとした場合は所有権に基づくことになる?
        • 福井
          • 所蔵家の権利。神社仏閣や古写真の所蔵者。は,所有権だが,発行のための許可に対してどうにか働くか。→働かない,ことが最高裁で言われている。出版社はものを借りだすときに使い方をどうするといった契約を交わすことになる。すでに出回っているイメージに所有者はなにも言えないはず。第三者に対しても働かない。
      • 小塚
        • 宇宙法に関する研究がある。観測衛星のうち,映像を撮るものは,所有権を侵さずにイメージを入手出来る。著作権にも抵触せず,所有権にも抵触しないものは,プライバシーによるバランスしかないのではないか。
        • 福井
          • アーカイブの構築にあたっては,プライバシーや肖像に配慮する必要がある。著作権のビジネスモデルは破壊されていることから,議論がしやすい。が,人格権由来のものはなかなか難しい。
      • 小塚
        • プライバシーや肖像は大事。だけど,情報の利用にどれくらいきちんと議論がされているか。もっと必要ではないか。
  • フロアから
    • TPPの条項はどれくらいのものか
      • 福井
        • かなり分厚い。
          • フロアから
            • 原則は国内条項をもちいるのか。
            • 福井
              • 条約→国会→国内法改正という流れで条項にそった改正がされるだろう。
  • フロアから
    • アニメアーカイブのユーザーや使われ方はどうか。海外からのアクセスはどういう形であるか。制度的には大丈夫なのか。
      • 植野
        • ユーザーはマルチユーザーで,さまざまな人をターゲットにしたい。
      • 福井
        • 各国の著作権制度との関係はどうか。ルールを共通化しよう,という場合,強い方に合わせることが往々にして起こる。ルールバラバラで本当に困るか。フェアユースのあるかないかによって困ることがあるか? となるとほとんどない。TPPは必要か?
        • アニメや映画の製作委員会をつくるが,8社で共有する著作権というものを生み出している。数年後に使えないコンテンツになる可能性がある。
  • フロアから
    • 日本ではなぜフェアユースが導入されないのか。
      • 福井
        • 権利者団体による反対,事後救済(裁判)を前提とする制度だから立法過程できらわれる。権利者団体にとっても,求めていないものが求めていない制度として入ってくる可能性がある。一方,フェアユースは日本に根付かないのではないか。裁判で白黒させることが必要,という文化になじめないのではないか。
      • 小塚
        • 基本的にはいまある例外規定のまわりを囲うような条項があるといいのかな,と思う。

クロージングディスカッション

  • ドメーニグ
    • 植野さんのプレゼンで,教育機関がかかれていた。この意味をもう少し考えていきたい。
  • 植野
    • 所蔵機関としての大学や専門機関という意味合いのほか,教育機関としての大学や専門機関という意味合いを強調したい。産業だけではアーカイブは難しい。
  • 上崎
    • アーカイブとつくることとつかうことのギャップに学生たちを授業で体験させる。教育プログラムのなかで,資料を整理する作業などを体験することで,基礎研究するためのもとになるだろうと考えている。
  • ドメーニグ
    • ハーバード大学から4人来ているが,アーカイブのことで,どうか。ファインダビリティという点の失敗などあれば。
      • マクヴェイ山田
        • MLAのどこにあっても,使いたいものは使いたい。ということで,MLAの検索を統合的にできるようになってきた。
      • ゴードン
        • 箱ものと呼ばれるが,実際に行く場所としての図書館。一方で,バーチャルな図書館(所在情報の連結)もある。図書館の意味合いは,だいぶ変わっているだろう。デジタルなネットワーク環境による変容。重要性は増しているだろう。
  • ドメーニグ
    • 作り手と受け手が分化していた時代とはことなり,それらが透明な・曖昧な状態になっている。著作権は現在縦構造で割られているが,今後は横構造になっていくのではないか。
      • イアン
        • 企業が著作権をやめない?アーカイブがもうリリースされている。一人ひとりのつくるアーカイブはすでにある。これを企業がかかわることがありえるだろうか?
      • ザルテン
      • 福井
        • 大きな流れでいうと著作権は後退戦を戦っているかも。コピーが簡単で流通があまりに簡単に進むことから,どの国でもコンテンツ産業は衰退している。TPPは,国家がルールメイクをしようとする最後かもしれない。自由なユーザーへルールを渡すことができるのだろうか。巨大なプラットフォームではないのか。国家の検閲に声を上げるが,アップル検閲やグーグル検閲に声を上げられていない。はるかに大きく,即効性がある。
  • フロアから
    • アクセスの再定義ということで,デジタルヒューマニティーズのシンポジウムかと思った。
      • 小塚
        • 著作権は表現に対する権利=コンテンツを守る権利であるが,本質はそこではなくなっているように思われる。実際には,検索で見つかるかどうか,も大きな問題であろう。メタデータだったりプラットフォームだったり。これは新しい問題でもあるが,著作権と合わせて両方を考える必要がある。
      • 福井
        • プラットフォームの強さ。無視できない点は,著作権をあまり必要としていない。アルゴリズムの結果(検索の結果,リコメンドの結果……)という民主的な意思決定ではない上,検証できない。
      • 大場
        • アクセスについて二つの面があることは事実。コンテンツへのアクセスをするためにデジタル化していく。デジタルにしただけではたどり着けない,ことに対して,ヨーロピアーナ,NDLサーチで,どこになにがあるか,ということをサービスとしてやるひつようがある。
        • 一方,だれでも,そういうサービスをつくれるようにしたい,というところもある。
  • 司会
    • 今日のシンポジウムは盛りだくさんだった。長時間にわたり参加いただき感謝。今後も,このような議論が各所で展開されたい。

所感

  • とにかく盛りだくさんだった。
  • そして濃い議論。
  • たまについていけないところもあり。とはいっても,実際にデジタルアーカイブの構築にあたって直面する課題であることは間違いない。
  • 「構築」と「利活用」という微妙な課題。利活用を提案しない限り,使ってもらえないし,使ってもらったうえで新たな使われ方が提案されない。このあたりの循環に乗せるまでが実際のアーカイブ運用にあたっては課題が大きいと感じている。これを直ちに解決する手段はないのだろうなぁ。事例・実績の積み上げがもう少し必要。
  • 法的な整備。TPPが大きく影響しているが,業界全体としての方向性とのすり合わせをどのようにしたらいいのだろうか,という部分。大局的な課題に対するアプローチを身に着けたい。。。。