第37回図書館建築研修会(2015年度)東北における新たな図書館の動き:震災から立ち上がる図書館. 1日目(2016-02-08)
標記研修会への参加。一関で開催されるとあれば行かねばなるまい。ただし都合により基調報告は参加できなかったので,自分が参加したところのメモ。この研修会の予稿集は販売されているので,ぜひ買うべきだろう。
1 基調報告「被災地の図書館復興の動き -東日本大震災によって被災した図書館の訪問記録」(川島宏 日本図書館協会施設委員)
拝聴できず残念…。資料を見る限り,丁寧に現地を回り聞いていった模様。
ちょっとした雑感。
予稿集には次のような記述がある。
訪問のお願いのために20近い館に連絡をしたが,「当時のことを知る職員はいませんが」との返事が意外に多かった。(中略)ただ,「大震災の時,図書館で何が起こったかを忘れてはならない」という思いから無責任に言えば,少し疑問に感じた。被害状況の記録や工事記録写真など,複数の館で事前に準備していただき拝見することができて,記録することの重要性を感じたが,地震発生時に現場にいた職員の言葉は重い。
自分も,異動した身であることから,この指摘にはうなずける。一般に人事異動の周期は3年程度であるが,図書館政策のスパンはもう少し長い。というよりも,建物復旧が必要な図書館の政策スパンは私としても,5年以上と考えるべきだろう。また一方,異動により経験知などがうまく引き継がれる組織づくりも必要である。 当たり前のことではあるが,当たり前のことができる組織は本当に少ない。
2 震災復興に向けた都市計画と図書館
気仙沼図書館の熊谷館長と基本設計に携わっている柳瀬さん(岡田新一設計事務所)の二人からの報告。
(1)気仙沼図書館災害復旧事業
- 震災時の気仙沼の様子を写真とともに解説
- 当時の図書館,現在建設計画進行中の図書館についての説明
- 2年間の検討期間を経て計画
- 事業費19億円,国庫補助金,市債(過疎債),寄付金(インドネシア政府),一般財源
- 市の復興目標=震災前に戻すことではない
- 面積が大きくなると復旧事業費ではまかなえない
- 図書館にいけば新聞があるじゃないか
- 情報を住民に提供する役割を痛感した
■ 柳瀬さんから
- 3月に設計あげる。その後現建物を解体。
- 最初に教育長を訪ねたとき,児童館との複合について,簡単なものではない,ということを言われた。
- 名取・大槌・陸前高田の図書館を紹介したい。図書館の原点のようなところと思う。
設計が終わったら終わりではなく,どんどんよりよい方向へ変更していくこともできる。
- 環境特性として「つながり」を生かす。
個人的には,この案件の前工程である検討委員会に二年間委員としてかかわっていたこともあり,進捗は気になっていた。設計プロポーザルが行われ,設計者が決まったという報告があって,あとはきっといい具合に進んでいくのだろう,と思っている。実際,いい具合に進んでいるのではないか。災害復旧で復旧費以外を充てることがほとんどの事業が多い。復旧はあくまで復旧であって,それ以上ではない,それ以上を求めるなら自主財源で,という姿勢は正しいのだろうが,なにか違和感も一方で感じる。
(2)福島県内の現状:被災状況を振り返りながら
(2016年1月22日現在で,)
- 福島県内の図書館はほとんど2011年度内に再開。現在5館が休館中。
- 数値的には震災前に戻ったが,震災前に戻ってないという声が大きい。=会津若松・白河の新図書館の数値が底上げしている。
- 小さな図書館では,館長と職員一人というところもある。実際になにか起こると,若手の正規職員であっても,臨時職員等に指示を出す必要があるが,うまくできなかったという回答もあった。
- 現在休館している図書館では,再開のめどが立っていないこともあり,協力体制を申し出たとしても,なにもできない状況下。基本的には情報収集をメインにしている。
原発の被害をどうしたらいいのか。と考えると重い。すごく重い。 科学的な分析とともに,一方で,心理的なことがら。放射線量が表面上少ないからといって,再利用できるのか。できないとすればそれをどう処分するのか。あるいは,一点ものとしての資料はどのように再構築できるのか。できないのか。
もやもやしながら二日目へ続く。 パネルディスカッションは刺激的ではあったが,なかなかメモをとるのも難しい。